ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第33話 クロアチアの小人

<<   作成日時 : 2008/04/02 00:48   >>

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3人の男たちはそれぞれに自分の銃の撃鉄を起こした。

「撃て」

その時、サイモンに銃口を突きつけていた顔中ヒゲの男が一瞬、躊躇した。

そしてまじまじと今から殺そうという男の顔を見た。

「サイモン?」

なぜ名前を呼ばれたのかと驚き、サイモンは首を回し、自分を殺そうとしている男をまじまじと見つめた。

「ゴ−ラン!」
「サイモン・ハントか」

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二人は突然、抱き合った。
ゴ−ランと呼ばれた殺し屋は今にも発砲できそうな拳銃を右手にもったまま、サイモンの背中を思いきり抱いて笑っている。

一気に空気がゆるんだ。

「サーシャ!サイモン・ハントだよ」

オレンジの車のうちの1台に向かって、ゴーランは叫んだ。

「し、知り合いか… 」

ダックは急に力が抜け、情けないような泣き笑いをベンに向けた。

ベンは流れる冷や汗を拭うこともできず、瞳孔が開いたままだ。

再会したらしい二人はまだ肩を叩き合っていた。

「ゴ−ラン! クロアチアの田舎者がここで何をしてるんだ」
「元気か、サイモン」
「この通りだ」
「さっき殺しかけたけどな」

極度の緊張から救われて、サイモンもへらへらと笑っていた。
殺し屋たちも笑っている。
でもゴ−ランは少し声を潜めて言った。

「いいか、この山には入るな。入るときは先に連絡を入れろ」
「分かった。約束する」

その場をしのいだところで、オレンジの車の中からピンクの上下を着た子どもが現れた。
いや、大人だ。
だがサイモンの腹のあたりまでしか身長がない。

サイモンはサーシャを見るとダックとベンに小声で言った。

「冗談を言って笑え。あのちっちゃい男を見つめるな」
「誰なんですか」
「こいつらはクロアチアのヤミ屋だ」

そう説明すると、サイモンはサーシャにも懐かしげな笑顔を向けた。

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「サーシャ!」
「サイモン」

ダックは映画以外で初めてこんな小さい男を見た。

「見つめちまった」
「見るな」

そう言うベンも目がサーシャに釘付けだ。

サーシャは笑顔でサイモンに近づくと、いきなり彼の股間をぎゅう、とつかみあげた。

「う… いてて… 」

息ができなくなって屈むサイモンが目の高さになったとき、サーシャは言った。

「俺の金は?」

サイモンはサーシャにまで借金をしていたのだった。

二度と会わないと思っていたのに、とサイモンは悔やんだ。
しかしそんないきさつがあったから、命が助かったともいえる。
何がラッキーで何がアンラッキーか、よくわからない。

ダックとベンはため息をついた。

いったいどこまで落ちぶれてんだ、サイモンは。
… そう思うと、ダックはもはやどこまで彼を信じればいいのか、またわからなくなった。
しかしそこまで顔が広いからこそ、命拾いもしたってわけだが。

サイモンは車に戻り、やおらダックのギターをもって出てきた。

それをダックの返事も聞かず、サーシャに差し出した。

「いいギターだろ?借金の代わりにとっといてくれ」

放心状態に輪をかけられて、ダックはベンにつぶやく。

「ひどい! 俺のギターを」
「ギターが体の2倍ありますね」

どうやらサーシャはそのギターを気に入ったらしい。

サイモンは笑顔をつくったまま、こちらを振り向いて戻ってきた。

「欲張りのチビめ」

サーシャに聴こえないように独り言を言い、ダックの白い目にはこう返した。

「何だよ」

ダックの目が語る。
命まで失いかけた上に、俺のギターを借金の返済に充てるのか。

無言の訴えを悟ったかのように、サイモンはうなずいた。

「この借りは返す。必ず返すから」

たとえ殺されかけても。
サイモンの脳裏には、まだフォックスを捕まえて手にする500万ドルの報奨金のことが消えていなかったのだった。

生きて戻れた運転席で、サイモンはため息をついた。
自分の無力さが、ひしひしと胸に迫った。


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※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ
第27話 チェレビチの見張り人
第28話 バーを探す
第29話 招かれざる客
第30話 命がけの問い
第31話 オレンジの車を追え
第32話 「ひざまずけ!」

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
はぁ・・・
息をするのを忘れるぐらい・・・。
不思議な臨場感は、まだまだ続く・・・なんですね。
RORO
2008/04/02 16:12
ROROさん
コメントありがとうございます。
ちゃんと息はしてくださいねw
まだまだすごい展開が待ってます…
深呼吸して読んでください!


おとなあやや
2008/04/02 23:28
ROROさん
最新の話で息できてますか!?
せたP
URL
2008/04/09 23:56
ウェブリブログ

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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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