ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第41話 追っ手の影

<<   作成日時 : 2008/04/06 07:15   >>

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車に乗り込んだとたん、激しく雨が降ってきた。

「ラッキーだ」
「守られてるのかもしれないな」

サイモンはふと、胸のペンダントを思い出した。

車に乗り込んでも、3人は興奮状態だった。

なんといっても一番役に立たないと思っていたベンが窮地を救ったのだから。
ベンはまだ無我夢中で舞い上がっていたが、ダックとサイモンはもう鬼の首を取ったかのような喜びようだ。

二人はベンという男が少しずつ度胸をつけて成長していく様が、またうれしかったのだった。

ダックは後部座席から身を乗り出した。

「あんな信じられない話を信じさせた!」
「どうして? 俺はCIAに見えるだろ」

サイモンがバックミラーを上目遣いに見て、胸を張ってみせる。

「笑わせるな」
「何言ってるんだ。俺の知ってるCIAはみんな俺みたいなタイプだぞ」
「もっとハンサムだよ」

二人の会話に、満足げにベンが口をはさむ。
やっとタメ口を聞けるようになったようだ。

「ぼくはタイプじゃないよね」

ダックが笑いをこらえて言った。

「そこが効いたのさー」
「CIAはCIAに見えない男を雇う。そこが、CIAなんだよ」

サイモンがまた知ったかぶりをして後部のダックをミラーでうかがった。

と、その表情が険しくなった。

突然怒ったような顔をしたサイモンの横顔をダックは覗き込んだ。

「どうしたんだ」
「つけられてるぞ、俺たち」
「なんだって? 本当に」
「後ろを見りゃわかる」

ダックは後ろを振り向いたが、激しい雨が瀧のように流れて視界をさえぎっていた。

だがあっという間に二つの光が大きくなって見えた。
後ろの車のヘッドライトがすごい勢いで近づいてきたのだ。

「ついてくるぞ」

ベンが声を上ずらせて聞いた。

「… だ、誰かな」

プワーッ、プワーッと、まるで警報のようにクラクションが響いてきた。
相手はトラックだ。

次の瞬間、トラックは3人の乗った黄色いベンツに体当たりした。

ガツン、という衝撃でダックの体が揺れる。
小柄なベンは座席から飛び上がりそうになるのを必死でこらえた。

「何をしやがる」

サイモンがアクセルを踏む。
しかしトラックも猛スピードで追いかけてくる。

二度目の追突。

「くそっ」

ダックが後ろに向かって吐き捨てた。

「やばい。サラエボまで逃げ切るぞ」
「一体、誰なんだ」

ベンはまた襲ってきた恐怖にもう声も出なかった。
雨の流れる窓の外に目をこらすが、ここがどこなのかもよくわからない。
サイモンが苦しげに言った。

「しまった。方角を間違えた。こっちはサラエボじゃなくてパーレだ」
「大変だ」

ダックは叫んだ。

「パーレってどこですか」

ベンが尋ねると、サイモンは答えた。

「まずい。戦争中にフォックスが住んでいたセルビア系の町だ」
「そりゃ最悪だ」

その時トラックは三度目の追突をした。

「バカヤロウ」
「サイモン、スピードを上げろっ」
「よし。つかまれっ」

サイモンはギアを上げ、アクセルを踏む。

ついでにライトはすべて消した。

「つかまれっ」

全速力で走る黄色いベンツは無灯になり、やがて山道を脇にそれて、崖っぷちで急ブレーキがかかった。

突然3人の車を見失ったトラックは、全速力のまま、パーレの方向へと走り去っていった。

サイモンの機転でトラックの追跡からは逃げ切ったものの、一歩間違えば、車ごと谷底へ落ちているような場所だった。

斜めになった車の中で、ダックは窓の外を見ることもできず、言った。

「サイモン。なぜおまえと一緒にいるといつも危険がつきまとうんだ」

サイモンはハンドルから手を離し、背筋を伸ばした。

「教えよう、友よ。
俺たちは危険に命をさらしている時こそ『生きている』んだ。
それ以外はテレビの中の絵と同じ。
そう思うだろ?」

ダックはふっと笑って窓の外をやっと見た。

激しい雨と暗闇に相変わらず何も見えなかった。


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※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ
第27話 チェレビチの見張り人
第28話 バーを探す
第29話 招かれざる客
第30話 命がけの問い
第31話 オレンジの車を追え
第32話 「ひざまずけ!」
第33話 クロアチアの小人
第34話 また現れた男
第35話 約束
第36話 天国から地獄へ
第37話 嘘
第38話 夜9時。ビシェグラード
第39話 マルヤナという女
第40話 CIAのルール

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