ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第39話 マルヤナという女

<<   作成日時 : 2008/04/05 09:19   >>

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ボリスに先導され、3人が入っていったのは、廃車になったバスの中だった。

おそらく銃撃されたのだろう。
硝子は割れ、ボロボロになったままトンネルの中に置き去られていたようだ。
かろうじて残った座席の奥に、女は座っていた。
暗闇の中で金髪だということだけがわかった。

ボリスに連れられ、3人が目の前まで来ると、女は英語で言った。

「座って」

サイモンがボリスからランプを奪い、その顔に近づけた。

美しい白い顔が見えた。

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その女こそ、マルヤナだった。
髪を束ね、緑のスポーツウエアを着た姿はまだ20代のようだ。

その灯りをまぶしそうに見やって、マルヤナはもう一度強い口調で言った。

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「そこに座って」

長いマッチで煙草に火をつけ、ふうっと煙を吐き出して、彼女は3人の顔をしっかりと確かめた。
それから語り始めた。

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「イスラムは敵よ。私の教え子の女の子たちをさらっていった」

ダックは静かに言った。

「誰もが苦しむのが戦争だ」

戦争の勝者はセルビアだ。
イスラム… つまりムスリム人の被害者はもっとも多かった。
しかしアルバニア難民もコソボ難民もひどい目にあった。
勝者のはずのセルビア人だって、殺された人は多い。
戦争は誰もが間違っている、殺し合いなのだ。

マルヤナは憤った目で早口に言った。

「誰もが… ふん。7時間回し乗りされて、苦しむのも?」

3人は答えを失った。
ここにも世界に報じられることのない、戦争のひどい現実があった。

その時、ダックは気配が消えたことに気づいて振り向いた。

「ボリスはどこへ行ったんだ」

それに答える者はいなかった。
マルヤナは興奮して話し続けた。

「正義は関係ないの。
セルビア人の誇りより、私はお金が欲しい。
父は商売で財産を築いたの。
でもせっかくの父の努力を、フォクスが乗り込んできて、すべて奪い去っていったわ。
ヤツは石油や煙草をセルビアから密輸して、軍備資金にしているの。
それを知った父は殺されて、うちは無一文よ…」

気の強そうな目が、3人をもう一度確かめるように見た。

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「… あんたたちがヤツらを殺してくれれば、私は商売を立て直せるわ」
「じゃあ我々のメリットはなんだ」

サイモンがリーダーのように言った。
彼女は当然だと言わんばかりに煙を吐いた。

「来た目的を果せるでしょ」
「どうやってフォックスに近づくんだ」

マルヤナは足を組みなおした。

「私の昔の男がフォックスのボディガードなの。
名前はミダッチ。
毎日電話してくるんだけど、私はもう愛想が尽きたの。
… CIAが来たときのために、縁を切らないだけよ」

CIAという言葉にベンとダックは顔を見合わせた。
どうやらこの女までが、3人をCIAだと確信しているようだった。

サイモンはその部分にはふれず、ひたすらフォックスにまつわる情報を聞き出そうとしていた。

「警護の数は」
「10人」
「こっちは3人」
「大丈夫よ。10人と言ったって相手は贅肉をつけた鈍くさいやつばかり」

そう言うと、マルヤナはその面々を思い出したように唇の端に嘲笑を浮かべた。

「ヤツらの正確な居場所を知ってるんだな」
「教えるわ」

マルヤナは鋭い目つきになった。

「1000マルク払って」
「1000… 冗談だろ」

サイモンが鼻で笑った。

「それが正当な礼金よ」
「どこが正当だ」

サイモンのストレートな突っ込みに、マルヤナの煙草をもつ手が少し震えた。

「危険を冒して会ったのよ」

憤りがマルヤナの声を詰まらせた。
ダックも追い討ちをかけた。

「払えない」

マルヤナは目を見開いた。
怒りと、自らにも迫る危険が、彼女を混乱させていた。

その白い頬はかすかに上気し、息があがっていた。

「私を利用する気なの」
「…」

3人は沈黙するしかなかった。
だが、彼女を怒らせるのもまた自分たちの身の危険を募らせることだった。

取り返しのつかない事態になってしまったかもしれない。
サイモンは、嫌な汗をかいていた。

「本気でないなら帰って」

マルヤナが小さく叫んだとき、今まで黙っていたベンが口を開いた。


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※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ
第27話 チェレビチの見張り人
第28話 バーを探す
第29話 招かれざる客
第30話 命がけの問い
第31話 オレンジの車を追え
第32話 「ひざまずけ!」
第33話 クロアチアの小人
第34話 また現れた男
第35話 約束
第36話 天国から地獄へ
第37話 嘘
第38話 夜9時。ビシェグラード

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ベンの雄弁な嘘シーンを想像するとワクワクします。
RORO
2008/04/08 11:40
ROROさん
ベンがここで意外なgood jobですね。
せたP
URL
2008/04/09 23:57
ウェブリブログ

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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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