ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする

<<   作成日時 : 2008/03/15 18:14   >>

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ホリデーインにチェックインすると、その夜、ダックはフランクリンとベンを誘ってバーへと足を運んだ。

吹き抜けになったバーは巨大だが、顔なじみのジャーナリストたちがたむろするのはほんの一角のカウンターだ。

その様子を見るなり、フランクリンは別のテーブルに行ってしまった。
遠巻きにベンのバー・デビューを見守るつもりらしい。


変わらぬ飲んだくれ仲間たちが5人で出迎えてくれる。

しかし皆、それぞれの国の一流のジャーナリストたちだ。


「おい、見ろよ」

皆が一斉にダックを見た。
そして、頭を両手で押さえ、伏せてかがんだ。

「ダック!」

全員一致のそのしぐさに、ベンはダックをまじまじ見つめた。
ダックは笑いを殺しながらテーブルに立つ。

仲間の一人が、グラスをあげる。

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「大物のお越しだ」
「たかろうぜ!」
「たかるならもう注ぐな!」
「気にすんなよ」
「ガキ連れで塹壕に戻ってきたわけか」

さては金髪の女との間にできた息子かと、リーダー格の禿げ上がった男はまじまじとベンを見た。

ダックを見つめる視線が笑う。

「人相、変わったなあ」
「金と女で堕落したか」

ダックは首を振りながら、ベンの分と2本のビールを頼んだ。


そして酒と汗の臭いにまみれた男たちに小さく反撃に出た。

「石鹸を買う金もないのか」

飲んだくれたちは隙あらばあのギャグだ。

「ダック(よけろ)!」


気がつけば、フランクリンはどこからか女をはべらせていい気分のようだ。


「なぜ『ダック』なんですか? 弾を避けてたから?」

おそるおそる尋ねるベンに、禿げ上がった男がもったいぶって説明し始めた。

「由来を話そう。…グアテマラのジャングルで、敵兵士のケツを見てムラムラし始めたダックはな、本隊から離れて、沼にいた鴨のカマを掘ってムラムラを晴らしたんだ」

「やめろよ」

まんざら嘘とも言わず笑うダックに、ベンは驚いた。マジかよ、とばかりに目を見開いている。 


ダックはベンの肩に手をかけた。

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「そんな話より、今夜は客を連れてきたんだ」

ベンは目を白黒させている。

「それも処女!」
「突っ込もうぜ!」

酔っ払った男たちが大笑いする。

「ダックと組むのか?」
「防弾チョッキは?」
「こっちのタマが吹っ飛ぶぞ」
「ハエがクソにたかるように弾丸を呼ぶ男だ」

矢つぎ早に暴言を突っ込まれて、ベンは言葉も出ない。
こいつら、いったいどこまでがマジなんだ。
ベンは身を硬くするばかりだ。


やがて話は本題に入った。

「とにかく… 国連は2万の駐屯兵を送り込んでも、戦犯を挙げられない。
やつらを逮捕しなきゃ、この国はいつまでたっても立ち直れないよ」
「フォックスをね」
「あいつを捕まえなきゃ」

ベンはおそるおそる口をはさんだ。

「フォックスって誰ですか?」

一瞬、ジャーナリストたちは顔を見合わせた。
くすくすと嘲笑がもれた。

ダックはあきれ返ってベンに聞いた。

「ボスニア戦争のあの本は?」

ベンは読み込んだ分厚い本をダックに差し出した。
あっという間にその本は放り投げられ、バーの床でもんどり打った。

「サンキュー教科書!」

ジャーナリストたちはまた爆笑だ。
ベンにはその本を拾いに行く元気もなかった。


その本に書かれていた以上の情報がすでにこのバーにあることも、もはやベンには想像がついた。

ジャーナリストたちがその目で見たこと、聞いたことの真実が、酔いとともに頭をぐるぐる回り始める。

「ボガノヴィッチ博士。
通称“フォックス”。
 戦争犯罪人の中の一番の大物だ。
 何千というムスリム(イスラム教徒)の虐殺、暴行を指令したんだ。
 首に500万ドルの賞金がかかってる」

ベンはもはやうわごとのように言った。

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「すごい」
「国連。CIA。NATO。チャック・ノリス気取りの賞金稼ぎが、ヤツを追っているんだ」

顎ひげのジャーナリストが動揺するベンをチラッと見た。

「顔色が悪い。地酒を飲ませろ」

ベンのグラスに四角いビンに入った地元の酒がつがれた。
まるでウォッカのように透明なきつそうな酒だ。

「うまいぞ。ブランデーだ」
「どういう味?」

男たちはにやにやしてベンを見守る。

「この国ではこの酒がテーブルに出されると、そばで悪魔が笑ってる、と」

さらに追い討ちをかけるダックの脅しにベンは一気に酔いを回らせた。

洗礼は終わった。


バー・デビューを果したベンはふらふらになりながら、ダックに誘導されて部屋を探す。

「おいおい。部屋が違うぞ」
「こういうジョークを?… ホリデー・インでは毎日が…」
「部屋が違うったら」
「ホリデー・インでは毎日がクリスマス・ホリデー!」

見事な酔っ払いぶりだ。

ダックはちょっとやり過ぎたかなと思いながら、無事に部屋の鍵穴を見つけたベンの肩を叩いた。

「朝飯に顔を見せなきゃ、NATOに捜索願いを出すぞ」
「わかった」
「おやすみ」

「待てよ。ダック(伏せろ)!」

ダックがにらみをきかせると、

「う…吐きそう」

と、部屋に入っていった。


大丈夫かよ、と肩をすくめて、ダックは自分の部屋の鍵を開けた。

人の気配。

「まさか、な」

灯りをつけたとたん、そこには男の影があった。


※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



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※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ

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☆スクープ情報局☆ 号外:
『ハンティング・パーティ』主演のリチャード・ギア、熱いね。 ...続きを見る
ブログ小説『ハンティング・パーティ』
2008/03/20 08:54

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ドキドキです。
次が気になります。
ひろみ
2008/03/15 20:37
ひろみさん
引き続き、お楽しみに。
せたP
URL
2008/03/19 21:22
ウェブリブログ

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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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