|
紛争終結から5年。 2000年の秋、ダックは再びボスニア・ヘルツェゴビナ空港に降り立った。 今回の相棒はキャスターのフランクリンと、新米プロデューサーのベン。 この荒くれた場所に来るのにもかかわらず、マンハッタンのオフィスに行くようなレジメンタルタイで決めている。 撮影する内容も「平和記念式典」がメインという、ヤワな仕事だ。 5年前とは地獄と天国ほど違う。 空港は整備されていたが、相変わらず殺風景なところだ。 「おい、そこ、地雷原だ」 ダックが地面を指差すと、小柄なベンはひっくり返りそうになった。 整備されたコンクリートの下にはもちろん、地雷などない。 「おどかさないでくださいよ… 嫌なジョークだな」 「いや。この国にはまだ50万個の地雷が埋まってるってさ」 「あ、それは本で読みました」 天然のくせッ毛、まだハイスクール生に見られてもおかしくない容貌のベンは、いちいちおどおどする。 ダックはそれがおかしくてよけいに怖がらせる。 「この前はあそこから狙撃兵にケツを狙い撃ちされた」 「えっ」 ベンは今度は頭を低くする。 指差さされた遠くの山並みに、もはや狙撃兵はいない。 フランクリンはそのダックの言葉をまったく気にもせず、今回のニュースのテーマを語る。 「戦争終結5年目か。… 使えるネタだ。 ダック、昔のコネに連絡してくれよ。 テーマは… そうだな、『薄れつつある民族間の憎しみ』… 『民族を超えた結婚話』とか」 「いいですね」 ベンが深くうなずいて、いっぱしのプロデューサーぶる。 その様子に今度はフランクリンが脅かした。 「あ、ベン、地雷だぞ」 「やめてください」 ダックは二人をちらっと一瞥して、歩を進める。 そしてベンとフランクリンの顔を見比べながら言った。 「何も知らないヤツが最初の海外派遣でここに送られてくるとはね」 ベンは悪ぶれずに言う。 「フランクリンとぼくの親父が『いい初体験になるだろう』って」 「お前の親父って?」 「知りませんでした?局の副社長なんですよ」 「そうか」 ダックは「なるほどな」、と苦笑いした。 空港を出て、タクシーからホテルへと向かう。 「ホリデー・イン」。 世界中から有象無象のジャーナリストが集まる、プレス御用達ホテルだ。 道すがら、ダックはもちろん5年前と今をだぶらせながら、車の窓越しの町を見ていた。 ちぎれた人の片腕や、膝から下が転がっていた、悲惨な炎に飾られたあの日々の風景と。 …ダックの胸に不穏な気分がよみがえったとき、ベンは無防備に外を見ながら言った。 「勉強したんですけど、複雑な戦争ですね」 「複雑な戦争?… “地獄”だったよ」 町じゅうの壁にはその名残の弾の跡があり、若いムスリムの女たちは魂を失くしたようにうつろな目で歩いている。 バスの中の人々ですら、みな固く身構えた気配でよそ者の車を見下ろしていた。 地獄は姿を変えて、まだそこここに潜んでいるのではないか。 ダックは蘇ってくる胸のうずきのような感覚を必死に抑えていた。 ※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。 ※ 人気ブログランキング に参加しています。現在、小説部門10位↑です。 続きが気になる!面白い!と思われたら、ぜひ、クリックお願いします。 ※ブログ小説目次 第1話 サイモンとダック 第2話 ぶち切れたサイモン・ハント 第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする 第5話 落ちぶれた相棒 第6話 3人は揃った 第7話 「聞こう。ネタって?」 第8話 ムスリムのカフェで 第9話 盗み聞き 第10話 “生と共に死を授かった男” 第11話 出発 第12話 チェレビチの森で 第13話 セルビアの村はずれのカフェ 第14話 撃たれた3人の車 第15話 フォチャへ 第16話 警察のティータイム 第17話 チェレビチからの命令 第18話 国連の男・ボリスとの出会い 第19話 プロの出番 第20話 フォックスは守られていた 第21話 バーの外の暗闇で 第22話 危険へと続く道 第23話 マルダとウーナ 第24話 サイモンの恋 第25話 サイモンの恋A 第26話 最悪の別れ |
| << 前記事(2008/03/14) | トップへ | 後記事(2008/03/15)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
☆スクープ情報局☆ 号外:
『ハンティング・パーティ』主演のリチャード・ギア、熱いね。 ...続きを見る |
ブログ小説『ハンティング・パーティ』 2008/03/20 08:54 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
知るものと |
おにょ 2008/03/16 07:01 |
おにょさん |
せたP URL 2008/03/19 21:21 |
| << 前記事(2008/03/14) | トップへ | 後記事(2008/03/15)>> |
