ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第2話 ぶち切れたサイモン・ハント

<<   作成日時 : 2008/03/14 16:27   >>

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「最高の報道レポーター」と言われたサイモン・ハントに、失墜の影が落ちたのは1994年、冬のボスニアでのことだった。

戦争につきものの愚かなすべてが一瞬にしてひとつの結論を招く。

悲劇は起こった。

そのサイモンの悲劇については、ダックだけが胸のうちに収めざるを得なかった。

サイモンはそのおぞましい「現場」を見たあと、キレたのだったが。

人は生涯に一度は切れる。
相手は上司だったり、恋人だったり、世の中だったりするだろう。
だが、サイモンは自分の最も大事なすべてを失って、キレたのだった。

ダックはその瞬間を、カメラに収めた。
後続のジャーナリストたちのために。

「ぶち切れたサイモン・ハント」。


その日は生放送だった。

全米に向け、ボスニアのポリエで村人が虐殺された後、サイモン・ハントはカメラの前に立っていた。

画像


ニューヨークのスタジオから、人気キャスターのフランクリンが話しかける。

「それではボスニアからサイモン・ハントです」

サイモンは、まずは原稿を読み始めた。

「内乱から2年。この民族混成国家は、荒廃の極地。

ボガノヴィッチ博士の率いるセルビア軍の目標は、イスラム教徒の殲滅。

今日も“国連保護下”にあるはずの村を襲いました…」


そのコメントを不穏に受け止めたフランクリンは、サイモンに問いただした。

「一部の報道では、戦闘を仕掛けたのはイスラム教徒側だと… 」


全米が見守る画面の中で、自分の感情と闘うサイモンが沈黙した。

そして、堰を切ったかのように、彼の言葉はとんでもない方向へとあふれ出した。

「戦闘じゃない。あれは虐殺だった」


サイモンの暴走発言を、険しい表情でフランクリンは制した。

「国連の監視委員の話では…」


しかし、もはやサイモンは止まらなかった。

「監視委員って誰のことだ?… オランダ人の委員のことか? あいつらはセルビア軍の兵士たちと飲みつぶれてる… 今朝も目にしたよ」


「ありがとう」

フランクリンは最後の挨拶で中継をカットしようとした。
しかし中継は続く。


「安全地域?村人は虐殺されてる。女は犯され、子どもが殺されてる!… フランクリン、おまえには見えてないのか。頭にパンティでもかぶってんのか?」

「生放送だぞ」

冷静な顔をしつつも、フランクリンの声はとげとげしかった。


画面に映し出されたサイモンは、さらにポケットボトルの酒をあおって吐き捨てた。

「まずけりゃ編集で切りゃいいだろ?腰抜けのおマン●野郎っ」

ピーッと、放送禁止用語をさえぎる信号音が流れた。


最高の報道レポーターがしでかした、最低な放送事故だった。


生中継がを終わると、サイモンはマイクを放り投げた。
ダックは振り向いたその哀しい背中をカメラで追うしかなかった。



これをきっかけに、サイモンの仕事はどんどん減った。

レポートに顔は出さなくてもいいと言われ、あげくに取材したテープも使ってもらえなくなる始末だった。

あっという間にサイモンは解雇された。

去っていく彼を、ダックは一人、空港に見送りに行った。

小さなプロペラ機に乗り込む前に、彼はズボンを脱いで尻を出した。

「FUCK OFF」

そう尻に書いてあったのを見て、ダックは「あいつらしい」と笑った。


そして、飛行機の中に彼が消えていくと、一人泣いた。

その後、ダックはニューヨークに戻った。


「長年、不安定な精神状態のサイモンに尽くした」とことを讃えられ、すべての特ダネが実は「ダックの手柄」だと噂された。

ダックはフランクリンがメインキャスターを務めるニュース番組のチーフ・カメラマンになった。

弾が飛び交うことも、爆風に転がることもないスタジオで、毎日が過ぎた。

欲しいものはすべて手に入った。ギャラははねあがり、お偉方の晩餐会に招待され、ブロンドの美女が彼に目配せした。

ダックはセントラル・パークを見下ろすホテルのスィートルームで、その日のうちに彼女を押し倒した。

出張にも、ファーストクラスが用意された。

小さな軍用機に押し込まれた記憶を、彼は脳裏で振り払った。


だが、サイモンは正反対の場所に落ちていた。

まずいくつかのケーブルテレビの仕事を始めた。

相変わらず、戦場が彼の職場だった。

しかもダックのような優秀なカメラマンとは組めない。

レポートの最中にカメラを落とすようなヤツばかりだ。

彼には屈辱だった。

結局、サイモンは最後にはケンカして降りるか、反抗的だという理由でクビになるかのどちらかだった。


そのうち、ジャーナリストとしてどん底に落ちた彼は、局で雇われるのではなく、まったくのフリーで取材を始めた。

取材したテープを後から売り歩くのである。

酒場でたむろするプロデューサーに、テープを売ろうとするのだ。

「500ドルでどうだ?全世界での独占ネタだ」
「そんなこと言って、ガザの時もがせネタだったじゃないか。あの時おまえに300ドル貸してるぞ」

人相の悪いプロデューサーは代わりに彼にビールを飲ませてやるだけだった。


落ちぶれたサイモンはその後、噂だけのユーレイ男になった。

上空を飛行機で飛ぶのも危険な戦闘地区に現れたとか。

地雷の埋まる戦場跡をさまよっていたとか。…


ダックはそんな噂を耳にするたび、煙草の火を踏み消すように忘れようとした。

サイモンと二人で過ごしたあの現場。

殺戮と狂気が渦巻く戦場。

死の恐怖でアドレナリンが噴出し、アレが勃起し続ける世界。

ありえない!

二度と、戻りたくない。

そう否定しながらも、よく夢を見た。

サイモンと弾を避けながら走る夢。

「ありえない!」

ダックは、自分を騙し続けた。


やがて2000年、秋。

ボスニア戦争終結から5年目。

あの場所が、再び、ダックを呼んでいた。


※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



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※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ

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☆スクープ情報局☆ 号外:
『ハンティング・パーティ』主演のリチャード・ギア、熱いね。 ...続きを見る
ブログ小説『ハンティング・パーティ』
2008/03/20 08:54

コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
ドキドキしますね。

絵が見えてきました。
つっちー
2008/03/14 16:46
すっごーい!!!
ますます、ドキドキ♪
かっこいいですね〜〜^^

続きが楽しみです
ちえぴ♪
2008/03/14 22:49
ぶちきれたサイモン
の心
スケールは全く違うけれど、自分の状況に置き換えて共感してしまいました。
roro
2008/03/15 12:36
ぶちぎれる瞬間の
描写がリアルで
大変面白く
二話にして
引き込まれています
りおな
2008/03/17 08:46
つっちーさん「
絵が見えた」というのは・・・?
せたP
URL
2008/03/19 21:17
ちえぴ♪さん
かっこいいですか!!!
ありがとうございます。
せたP
URL
2008/03/19 21:18
roroさん
切ないストーリーなんですよ。後に明かされますが。。。
せたP
URL
2008/03/19 21:19
りおなさん
女性の方がこのぶちぎれシーンには共感いただけるんでしょうか?
せたP
URL
2008/03/19 21:20
日々現場を目の当たりにしたサイモンの憤りが、サイモン自身のその後に影を差してしまった状況が悲しいですね。現場と現場を伝える側の温度差を感じます。。
まゆ
2008/03/22 00:02
ごめんなさい。「現場を伝える側」は、スタジオなどのことです。
まゆ
2008/03/22 00:04
まゆさん
報道の現場では結構あるんでしょうね。こういうこと。
せたP
2008/03/22 23:10
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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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