ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第1話 サイモンとダック

  作成日時 : 2008/03/14 10:00   >>

ナイス ブログ気持玉 16 / トラックバック 5 / コメント 42

… この物語は 「まさか」と思う部分が真実である。…


目の前で、体の中心を射抜かれた男が吹っ飛んだ。

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その姿を撮影しながら、テレビ・カメラマンのダックは走る。

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マイクをもつレポーターのサイモンが、それを追う。

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すべての戦場は地獄だ。
ニュースの映像はほんの一部分にしか過ぎない。

誤撃、誤爆。
そんな言葉で語られる罪のない人たちの虐殺は山のようにある。

「戦争の悲劇」と、ニュースを見た人たちは思うだろう。

でも、戦争を報道する側には魅力的な面もある。

それは死と紙一重の世界で生きるスリル、だ。
二人は酔っ払うといつも話した。

「はっきり言って…」
「一度経験したらやめられない!」

そんなスリルに魅せられたダックとサイモンは、今日も発砲と爆発と転がる死体の間を走りぬけていた。


たとえば92年のソマリア。

ダックの幸運のお守りは「ウサギの足」だった。
脱兎のごとく走る。
洒落でもなんでもいいから、信じなければ走れない。

軍は容赦なく市民を襲い、わが子の亡骸に取りすがって泣く女の涙すら、爆風がはじき飛ばしていく。

そんなおぞましい風景をダックがカメラに収め、サイモンが解説する。

撮りながら、ダックは思う。 
(この襲撃の模様を押さえたら、ホテルに帰れる。冷えたバドワイザーを飲みながらボロボロになった「ペントハウス」をめくるんだ… )

二人の民間人を追う兵士が、その背中めがけて発砲する。
その後ろを、カメラを右肩にかついだダックが追いかけていく。
防弾チョッキの背中には「TV」と形どった白テープが貼り付けてある。

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ジャーナリストを撃ってはならないことにはなっているが、流れ弾に当たるのは、当たるほうの勝手だ。
しかも明らかに乱射されている場合「流れ弾」ともいえやしない。
「邪魔すんな」と撃たれることもある。

もちろん、スリルだけがエネルギーなわけではない。
民間人の住居が兵士に荒らされ、壁に散弾銃が打ち込まれて蜂の巣のようになっているのを、二人は世界に知らしめようと意気込んだ。


たとえば1994年のボスニア。
それは二人にとって輝ける地獄だった。

民族の利害の対立と主導権争いから紛争が勃発。
「民族浄化」というスローガンのもと、セルビア人勢力は圧倒的な武力で虐殺を行った。
人口では多数派のムスリム人が最大の犠牲者を出していた。
居住地から追い出される際、男性と子どもは殺害され、多くの女性が兵士に強姦された。

「見ろよ、このありさま」
「これは戦争じゃない。人殺しだ」

その日も、サイモンとダックは前線にいた。

炎上したトラックがそのまま走行していく。
二人が走り抜けたそばの倉庫が爆発する。

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やっと隠れた塀からサイモンが顔を出そうとすると、ピュンピュン、と弾が鼻先をかすめた。

大きくひとつ息をついて、サイモンは自分のブーツのファスナーを開け、しけた吸殻を取り出して、火をつけた。

そのしみったれた様子に呆れて笑ったダックに、サイモンはおもむろに聞く。

「クスリ、あるか?」

そんなもの、ここにあるわけがない。
危機一髪のタイミングで生きる二人には、言葉の意味を前のめりに理解しあうことができた。

「この先へ進むっていうのか?」
「もちろん。その前にクスリが欲しい」

サイモンはダックの答えを待たずに塀を曲がった。
ダックは「くそったれ」と胸の中で叫びながら、その背中を追う。
また爆風が彼らを襲う。
走りきり、なんとか弾と火を免れた、車の陰。
サイモンはにやりと笑って、まだ火のついた煙草をダックの目の前にかざした。

「今の、撮ったか」
「まさか」

ダックは恐怖で言葉も出ない。
「一体今の状況で?生きてるのが不思議なくらいだ」と言い返したいのだが。

サイモンは煙草の火をブーツのかかとで消しながら、言った。
吸いかけの煙草はまたリュックに放り込んだ。

「レジャー番組の取材とでも思ってんのか? 
 ニュース番組で流す映像を撮るんだ。戻って撮りなおしてこい」
「危なすぎる」
「怖いのか?」
「じゃ、君が撮れ」
「おまえだ」
「君だ」

サイモンはうっすら微笑んで小首をかしげた。

「俺はカメラは使えない」
「しょうがねえ」

ダックは意を決した。
なぜ潜り抜けた地獄に後戻りしなくてはいけないのか。

それは、自分がプロのカメラマンだからだ。
サイモン、おまえより俺のほうが勇気があるんだと、あとでうまいビールを飲みたいからだ。
生きていればだが。…

「くそっ」

カメラを構え、角を曲がった瞬間、ダックは爆風に倒された。


… ダックはサイモンのおかげでそんな目に4回あった。

しかし、9年の間、サイモンはかすり傷ひとつなかった。

特ダネは数知れない。

チームとしてサイモンとダックはアメリカで幾つも報道の賞を獲った。

二人は戦場ジャーナリストとして、最高の地位を得たのだ。
授賞式でタキシードを着る二人に、戦場での彼らの顔を知らず、女たちが群がった。

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女。金。名誉。

誰もが欲しくてよだれを垂らすものを与えられながら、サイモンは吐き捨てた。

タキシードのタイをむしり取り、めんどくさそうに葉巻を吸いながら。

「賞は痔と同じ。どんなケツの穴もいずれ痔になるもんだ」。



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※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ
第27話 チェレビチの見張り人
第28話 バーを探す
第29話 招かれざる客
第30話 命がけの問い
第31話 オレンジの車を追え
第32話 「ひざまずけ!」
第33話 クロアチアの小人
第34話 また現れた男
第35話 約束
第36話 天国から地獄へ
第37話 嘘
第38話 夜9時。ビシェグラード
第39話 マルヤナという女
第40話 CIAのルール
第41話 追っ手の影
第42話 誰も信用するな
第43話 荒らされていた部屋
第44話 サージャンの小屋

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(原題:The Hunting Party) ...続きを見る
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☆スクープ情報局☆ 号外:
『ハンティング・パーティ』主演のリチャード・ギア、熱いね。 ...続きを見る
ブログ小説『ハンティング・パーティ』
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(C)2007 IM Filmproduktions GmbH All Rights Reserved ...続きを見る
をとなの映画桟敷席−ほぼ毎日が映画館
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3月に入って、ようやくあたたかくなりました。その分、黄砂や花粉のような困った現象も。花粉症の皆さま、ご自愛ください。 3月上旬に見た主な映画は以下。「ジェイン・オースティンの読書会」「ネクスト」「大いなる陰謀」「悲しみが乾くまで」「ハンティング・パーティ.... ...続きを見る
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2008年5月公開予定の映画です(全部じゃありません)。 4/28現在の話題作と、気になったのだけをチョイスしてます。 公開日が決まった物しか載せてません。 新しく分かり次第追加してきます。 劇場や地方ごとの上映開始日等はタイトルでググッたりして調べてください。    ☆‥話題作    ★‥個人的にオススメの話題作    ★★‥オススメの超話題作    ◇‥注目作    ◆‥個人的にオススメの注目作    俳優名の右の()内は、役名。ただし英語からの訳... ...続きを見る
〜Sit back And Relax〜
2008/04/28 15:42

コメント(42件)

内 容 ニックネーム/日時
森綾さんの文章、すごいリアリティを感じますね。
戦場にいるみたいな気分になります。
ボスニアのことはニュースで流れてるな、ぐらい
しか興味がなかったので、ネットで調べて
見たくなりました。
koibana
2008/03/14 10:18
おもしろそうなストーリーですね〜。
最初の1行からひきこまれました。
つづきが楽しみです。
JK
2008/03/14 11:37
ハンティングパーティ早くみたいなーとおもってたので、うれしい
ブログです。こういうジャンルのものって、前からあったんですか?なんだか新鮮です。
パレス
2008/03/14 13:04
最初の一行から引き込まれました!!
今後の展開が楽しみです♪(^-^)v

画像が使えるのはコラボならではですね!

それにしても、森さんの文章のタッチが今までと全く異なることに驚いてます!?
アリアリ
2008/03/14 13:39
試写を見ましたが、
リチャード・ギア、
テレンス・ハワード、
ジェシー・アイゼンバーグの
3人が演じているキャラクターが
とても魅力的です。
映画もテンポがいいですが、
このブログ小説も
とてもテンポいいですね。
迫力のある映画のシーンが
よみがえってきます。
あのクライマックスが
どうノベライズされるのか。
楽しみにしています!
SONG4U
2008/03/14 14:08
ブログ小説とは面白いですね。

読んでから観るか、観てから読むか
悩むとこですね〜。

次回楽しみです
つっちー
2008/03/14 14:53
どきどきしながら読みました。
男の血が騒ぐというか・・・(笑
次回も楽しみにしています。
Keishi
2008/03/14 15:17
とにかく、不思議な臨場感 !の一言です
文章をこんなに軽快に読み進めるなんて!
続きが気になるし、
映画は気になるし、
こんな不思議な臨場感を過去に味わったことがあるかしら????

それにしても・・・・・
リチャードギアは素敵。

読み進めながら、リチャードのイメージを膨らませてみたり、ハラハラしてみたり・・・続きが気になるし・・・・・・・

そうそう、これが不思議な臨場感なんですよね。

roro
2008/03/14 16:29
これから毎日楽しみです( ̄ω ̄)

ドキドキしますね

続きを待つワクワク感が久しぶりです
ぴこ
2008/03/14 18:56
本を読む時間がなかなかない私。
けれど、最初の一行目で「やられたっ」って感じで…引き込まれました。

その場に居合わせてしまった感覚。

かなりドキドキしました。
かめさん
2008/03/14 20:37
おおっ!
迫力ですねえ!
この続きに期待、大!ですよ。
jonna
2008/03/14 20:59
ちょっとおもしろそうなので
最終話まで読んでみます。
おまつ
2008/03/14 23:01
一気に引きこまれました。
映画も楽しみですが、小説を読んでいくのが
楽しみです
あすか
2008/03/14 23:25
凄い!
戦場にいるみたい。
ドキドキしちゃいます。
おちゃ!
2008/03/15 00:55
文章と写真があいまってすごい迫力です。
続きが楽しみ♪
こにたん
2008/03/15 09:47
これからの展開が気になるストーリーですね〜
続けて読み続けます
りおな
2008/03/15 13:34
すごいですね!
すばらしいですね!

自分も戦場にいるような感じです

今後のストーリー展開が楽しみです!

映画の方も楽しみです!
たかゆき
2008/03/15 19:46
なるほど、こういうカタチでの展開があるんですね。
ブログとの連動。
配給からの持ちかけなのかな? 
映画の確認、参考になります。
TBありがとうございました。
えい
URL
2008/03/17 09:58
koibanaさん
管理人のせたPです。いまさらながら、コメント返しさせていただきます。これを機に、ぜひ、ボスニアのことや最近だとチベットなど国際問題について勉強しましょう!
せたP
URL
2008/03/19 20:53
JKさん
引き続き、よろしくお願いします。
せたP
URL
2008/03/19 20:54
パレスさん
ニュースでもたくさん取り上げていただきましたが、こういう形式はおそらく日本で初めての取り組みです。
http://www.biglobe.co.jp/press/2008/0314-1.html
せたP
URL
2008/03/19 20:57
アリアリさん
場面写真付なかなかいいでしょ?
せたP
URL
2008/03/19 20:58
SONG4Uさん
この小説は映画を観た後の思い出しにもいいですよね?
せたP
URL
2008/03/19 21:00
つっちーさん
ぜひ、読んでから観てください。
せたP
URL
2008/03/19 21:02
Keishiさん
男の血騒ぐ小説ですよね。確かに。
せたP
URL
2008/03/19 21:03
roroさん
ぜひ、不思議な臨場感を5月まで持続させてくださいね♪
せたP
URL
2008/03/19 21:04
ぴこさん
ワクワク感続いてますでしょうか?
せたP
URL
2008/03/19 21:05
かめさん
携帯でも
http://huntingparty.at.webry.info/
で読めますので、移動中にぜひ。
せたP
URL
2008/03/19 21:06
jonnaさん
迫力持続してますでしょうか?引き続き、ご愛読よろしくお願いいたします。
せたP
URL
2008/03/19 21:07
おまつさん
続けて読んでいただいていますでしょうか?ぜひ、最後までお付き合いください。
せたP
URL
2008/03/19 21:08
あすかさん
小説も映画もよろしくお願いいたします。
せたP
URL
2008/03/19 21:08
おちゃ!さん
不謹慎ですけど、戦場の緊迫感を感じられますよね。
せたP
URL
2008/03/19 21:10
こにたんさん
文章と写真をいい感じに感じていただけるとうれしいです。
せたP
URL
2008/03/19 21:12
りおなさん
続けて読んでいただけると嬉しいです。
せたP
URL
2008/03/19 21:13
たかゆきさん
映画もぜひ、ご覧ください。
http://www.huntingparty.jp/index.html
せたP
URL
2008/03/19 21:15
えいさん
洋画で配給会社と連動して、ブログ小説・書籍出版化(4月18日扶桑社予定)は初めての試みです。
せたP
URL
2008/03/19 21:17
戦場にいるようなイメージが文章から伝わってきます。
ボスニアはサッカーのオシムさんの故郷として有名ですね。
これからが楽しみです!
がんばってください。
やすたけ
2008/03/21 16:20
やすたけさん
オシムさんはボスニアなんですね。重要情報ありましたかございます。
せたP
2008/03/21 22:06
すごい臨場感ですね!
最初の一行で、一気に引き込まれました!

戦場とジャーナリストとの、同空間に存在するものの異空間、
というような…今までに感じなかった感覚に陥っています。
続き、どんどん拝読します!
まゆ
2008/03/21 23:51
まゆさん
ありがとうございます。
せたP
2008/03/22 23:08
表と裏、光と影は常に世界の側面として存在するわけで、
ぬくぬくとかってにひとりで生きているかのような日本人のボクにとってはとても価値のあるモチーフですね。

ゲルニカをして、最終的にピカソがたどり着いた境地に今、森綾さんは向かっているのかもしれません。

とっても期待してます。

楽しみです。
九慈八幡七之介六郷五彩
2008/03/28 20:31
九慈八幡さん、ありがとうございます。
女性誌を中心に仕事をしてきた自分にとっては
このテーマは戸惑いもありました。
でも映画を毎日見て書き出し始めたころには、
私はサイモンになって戦火のなかを走ってました。
子どものころ、ロバート・キャパになりたかったのです。それを思い出しました。
現場にいたい。その情熱はよくわかるのです。
最後まで走りぬけたいと思います。
おとなあやや
2008/03/29 23:56
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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
毎日2回更新予定!
【小説】 第1話 サイモンとダック ブログ小説『ハンティング・パーティ』/BIGLOBEウェブリブログ
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