ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第26話 最悪の別れ

<<   作成日時 : 2008/03/28 13:24   >>

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ダックはベンに「サイモンがぶちキレた日」のことを話し始めた。

「サラエボが孤立して、マルダもウーナも消息がわからなくなった。
どうやらマルダは母親を助けるために故郷のポリエに帰ったらしいということだった。
ある日…」

胸につかえるものを感じて、ダックは上を向いた。

「ポリエで戦闘があったと聞いて、サイモンと俺は取材に飛んだ。
マルダの故郷とわかってはいたが、お互いそのことには触れず、ひたすら取材することに意識を集中しようとしてた。
そして見つけたんだ。本番の20分前にね」
 
… そこで見たものは、二人の言葉を奪った。

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建物の柱も残らないほどに撃ち崩され、爆発された残骸の中に、レイプされて殺されたムスリム人の女たちの死体がそこここに転がっていたのだ。

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そのそばで、酒を飲んでいるのかクスリをやっているのか、まだ酔っ払っているセルビア兵がたむろしている。

全滅にたやすい、小さな村だった。

硝煙の臭いに、タンパク質の焼けた臭いが混じる。

農家は撃ち払われ、焼かれ、草の上に、人間の死体がそこここに転がる。

その状況をニュースとして追いながら、サイモンとダックは探すともなく見つけてしまった。

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「マルダ… 」

サイモンは駆け寄った。
息をするのも忘れて、無残に変わり果てた姿の恋人にすがりついた。

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臨月の彼女の腹には5発の銃弾が打ち込まれており、銃痕がクランベリーのようにまだ赤かった。
サイモンは震える手で彼女が脱がされたのだろうジーンズに触れ、そばにあったひざかけで恋人のいとしい場所を覆った。
血だらけの首筋には「お守り」のはずのあのペンダントが残っていた。
サイモンはしばらくは泣きながら彼女の亡骸をやさしく愛撫していた。

ダックはカメラを肩から落ろした。
「もうすぐ本番だ」という言葉を飲み込んだ。

サイモンは錯乱状態だった。

その時、通りかかったのが「ポリエ壊滅」を視察しにきたフォックスだった。
二人の護衛官に守られた彼は満足げに「民族浄化」のなされた光景を味わっていた。

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「くそっ」

サイモンは突然、フォックス目指して走り始めた。

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「やめろ、サイモン」

手を出せば、撃たれる。
しかし、ジャーナリストとしてただこの地を取材しに来たというのなら、彼らに撃つ理由はない。

フォックスは愉快そうに手招きする。
彼は人が殺されるのを見たいのだ。
それが、生きがいだから。

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「冗談だよ」

いったんダックをかわし、それでも走ろうとするサイモンを、ダックは涙ながらに抱きしめた。

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「ダメだ。殺される。サイモン。今、殺されてどうする?」

その言葉に、サイモンはわが身の無力を思って泣き崩れた。

「ちくしょう。ちくしょう…」

ダックは涙ながらに、サイモンを撃たれまいと背中を盾にした。

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なんだ意気地なし、とでも言わんばかりに眉尻を下げて微笑み、フォックスは部下を引き連れて行ってしまった。

愛する人を辱めて奪い、なおも蔑む顔。

サイモンの胸にその顔が焼きついた。…

 
ダックはそのあまりにもむごい風景を知らないベンに、静かに諭した。

「大学の教室で教わったことを鵜呑みにして信じるな。
テレビの映像と実際に何がああったのかとは、同じじゃないんだ」

ベンはうなずいてうなだれた。

少しばかり生えてきた無精ひげも、彼を少しだけ大人にしたようだった。


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※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A

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コメント(16件)

内 容 ニックネーム/日時
o(>_<)o なんと!!!!こんな悲しいことに。
でもでも、ものすご〜〜く臨場感があって
ワクワク。。。
この後、どうなるのだろう・・・。。
とても気になりますね。楽しみにしています。
ちえぴ
2008/03/28 13:40
胸がえぐられるようです。。。。
最悪にキナ臭い中で起こる最大の悲劇ですね。
そんな中、本当のジャーナリズムとは何か、を問うこのストーリーに
心打たれました。
jonna
2008/03/28 13:48
胸が痛い……です。楽しみにしていた更新でなんとなく展開の予測はしていましたが、言葉ひとことひとことがリアルで心にひびきました。待合いの時間に読んでいましたが、表情を隠すのが精一杯。
RORO
2008/03/28 13:53
文章と画像の相乗効果で胸が一杯になりました。

上映が楽しみです!
Mr.Ao
2008/03/28 15:18
サイモンがフォックスを追っていた理由が、
こんなに深く悲しいものだったなんて・・・。
現実に、これに近いことが起こったのかと思うと、
言葉もありません。
JUNKO
2008/03/28 16:22
今回はさすがに推薦されるほど
感動致しました
動画でもないのに
写真だけで
かなりの感動
感涙です
りおな
2008/03/28 17:21
むかし、戦争カメラマンの知り合いがいまして、聞くところによると、ついさっきまで話していた人が
次の瞬間にただの肉の塊に化したりするわけで、
狂気が常な世界なんですね。

そんなところに行きたいとは思いませんが、
ただ映画は観たいです。

ノンフィクションであればなおさらです。
九慈八幡七之介六郷五彩
2008/03/28 20:11
ちえぴさん
コメントありがとうございます。ブログ小説はちょうど半分折り返し地点です。
せたP
URL
2008/03/29 11:07
jonnaさん
胸がえぐられる・・・まさにそのとおりの話ですね。
せたP
URL
2008/03/29 11:19
ROROさん
待合時間に読んでいただき、ありがとうございます。携帯で読めるようにした甲斐がありました。
せたP
URL
2008/03/29 11:21
Mr.Aoさん
写真の力は偉大ですねー。
せたP
URL
2008/03/29 11:22
JUNKOさん
僕が同じ立場だったら、やっぱり復讐すると思います。
せたP
URL
2008/03/29 11:23
りおなさん
中間点の一つのクライマックスシーンです。
せたP
URL
2008/03/29 11:24
九慈八幡七之介六郷五彩さん
映画は実話をベースにしていますが、エンディングなどところどころエンタメ作品としてフィクションになっています。ぜひ、ご覧ください。
せたP
URL
2008/03/29 11:26
皆さま、コメントありがとうございます。
このシーンは力がこもりました
ここを盛り上げるために24,25はノベライズのみの挿話になっています。
3人はこれから幾多の危機にさらされていきますが、この冒険はそれぞれの人生にとってのチャレンジであるという部分にも注目して読んでいただけたらなあと思います。
おとなあやや
2008/03/29 23:50
おとなあややさん
補足ありがとうございます。
せたP
2008/03/30 02:47
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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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