ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第24話 サイモンの恋

<<   作成日時 : 2008/03/27 16:28   >>

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サイモンは、さびれたホテルの窓辺でダックとベンの姿を見下ろしながら、ふと、あの頃を思い出していた。
生涯忘れ得ない、たった一人の人を。

マルダ。

ムスリム人の彼女と初めて出会ったのは、彼女の従姉妹のウーナがバイトしているサラエボのカフェでのことだった。
戦争が始まるか始まらないかという頃だった。
ウーナとマルダ。
美人の従姉妹どうし。
二人どうしなら誘いやすい。
サイモンとダックは「ちょうどいい」とばかり、あっという間に同盟をつくりあげた。

最初からサイモンはマルダにひかれていた。
つややかな黒髪と黒い瞳。
大学で言語学を学んで旅行代理店に勤める彼女は、美しい英語を話した。
そして人懐っこく、サイモンの現場での武勇伝を好奇心をもって聞き続けた。
あるときは朗らかな笑い声で、あるときはその黒い瞳を北の海のように潤ませて。

戦争が始まって2年ほど経ったあるとき、サイモンは一時帰国しなくてはならなくなった。
その時、空爆の危険を冒して彼女はオフィスに駆け込み、チケットを手配した。

「絶対に戻ってきてね」

サイモンはサラエボに戻ると、それからは稼いだ金を彼女に貢ぐようになった。
彼女はその金を田舎のポリエに住む母親に仕送りしていた。
彼女の父親はセルビア人で、クロアチアのザグレブに行ったまま行方不明になっていた。

あるとき、彼女は歌を口ずさんだ。

♪モスカニーチェ
命をつなぐ水
それがおまえの名前
山肌を流れ落ちて
私の愛する人に
こう伝えておくれ
私が言っていた
戻るか 去るか
それはお前の自由だと
彼女に飲ませないで
モスカニーチェよ
お前の冷たい水を
彼女は飲んでしまう
この私の
黒い目まで…

「誰の歌?」
「わからないけど… 父がよく歌っていたの」

頬をつたった涙をサイモンの指が拭った。


※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



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※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ

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