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車に寄りかかりながら、ダックは遠い目でベンに語りかけた。 「女が二人いた。 マルダとウーナ。 従姉妹どうしでね。 サイモンはマルダと、俺はウーナと付き合ってた。 戦争の真っ只中だよ」 それぞれの恋はサイモンとダックがボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を報じ続けたのと同じくらいの長さで続いた。 そして非常事態だからこその緊張感が、恋をより濃密なものにした。 「みんな、金もなくて、刹那、刹那に生きてたんだ。 そういう中で俺たちはその女二人と楽しい時間をもてた。 ありえないくらいにね」 ダックは目を潤ませた。 当時の様子がありありと浮かんできたのだった。 誤爆された省庁の硝煙の臭いが漂う夜、マルダの部屋に集まることになっていた。 サイモンとダックが取材が終えたのは夜中の1時を回っていた。 「待ってるかな」 「寝ちゃったかもな」 サイモンがドアをノックすると、鍵が開いた。 真っ暗な部屋にぽん、と明かりがついた。 「アロハ」 「アロハ」 そこはハワイだった。 彼女たちはどこから探してきたのか、ハイビスカスのレイ姿で出迎えた。 「ちょうどいい時差かもね」 「サプライズでしょ」 「驚いた」 ハワイ風の飾り付けよりも、遅くまで待っていてくれたマルダとウーナの笑顔に、サイモンとダックは一番驚いた。 青いカクテルをつくり、「セルビアを飲み干す」のだとウーナは一気飲みした。 二人とも酒が強く、陽気で、歌がうまかった。 サイモンとダックは戦場に突然現れたハワイに心から安らいだ。 二人ともまだ22〜23歳で、マルダは旅行代理店に勤め、ウーナはサラエボ大学に通いながらカフェでバイトしていた。 「そのうち戦争が始まって2年目か3年目か… サイモンとマルダの仲は深まっていったんだ… 」 ベンはダックのそんな顔を初めて見た。 ダックがベンに語りかける様子を、サイモンはホテルの部屋から見下ろしていた。 そして自らもその時のすべてを痛いほど思い出していた。 ※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。 ※ 人気ブログランキング に参加しています。現在、小説部門10位↑です。 続きが気になる!面白い!と思われたら、ぜひ、クリックお願いします。 ※ブログ小説目次 第1話 サイモンとダック 第2話 ぶち切れたサイモン・ハント 第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ 第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする 第5話 落ちぶれた相棒 第6話 3人は揃った 第7話 「聞こう。ネタって?」 第8話 ムスリムのカフェで 第9話 盗み聞き 第10話 “生と共に死を授かった男” 第11話 出発 第12話 チェレビチの森で 第13話 セルビアの村はずれのカフェ 第14話 撃たれた3人の車 第15話 フォチャへ 第16話 警察のティータイム 第17話 チェレビチからの命令 第18話 国連の男・ボリスとの出会い 第19話 プロの出番 第20話 フォックスは守られていた 第21話 バーの外の暗闇で 第22話 危険へと続く道 第24話 サイモンの恋 第25話 サイモンの恋A 第26話 最悪の別れ |
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