ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第12話 チェレビチの森で

<<   作成日時 : 2008/03/21 00:30   >>

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パーン、と銃声が響く。

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その音に驚いて、鳥たちがバサバサと飛び立っていく。

「お見事。命中です」

手下の男が撃たれた狐を拾い上げた。
一発は急所を射て、狐は即死状態だ。
かわいらしい丸い目は見開かれたままだった。

あんなにも走り回っていた命が、あっという間に死んだモノに変わってしまう。

「とうとうしとめましたね」

手下は細面の背の高い老人だ。

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どうやら手下といっても、彼が男に狩猟を教えているようだった。
おべんちゃらめいた言葉に、撃った男はにこりともしない。

「俺は物足りないね」

そしてふと空を見つめた。

「この森は大気の中の血の匂いを嗅ぎつける」

ぞっとするような冷酷な、そして何かを過敏に感じ取る目。

手下は、いつもながらに、その目に満足しつつ怯える。
彼が嗅ぎ取る「血の匂い」に、はずれがないことを思い出すのだ。
そしてその「血の匂い」は、獣ではない。

彼を追う罰当たりな人間たちのこと、なのだ。

金メダリスト並の射撃の腕をもつこの男。

この男こそ、3人が追う、フォックスだったのだ。

フォックスは身体能力も頭脳も優れた男だった。

精神科医でもあり、多くの人々を統べる術を心得ていた。

たとえば人を服従させるために、その人の存在価値を認めるというのがうまかった。

「生きるか、死ぬか」という戦場での二つの選択の中では、「生きる」ことを選ぶためにはいかに誰かを殺すかだ。

人々を二者択一の強迫観念に追い込み、「生きる」という本能に目覚めさせるために、殺させる。

いかにもそれが彼の庇護のもとであるかということを強く認識させる。

「殺す」という気持ちに存在価値を与えるのである。

自分自身にも「生と死」が一対であるというその気持ちを常に奮い立たせるために、彼は今日も狩猟を続ける。

生き物を「殺す」ことでだけ彼は生きていることを実感できるのだ。

そんな彼に、周囲の人間は怯え、絶対的に彼の側であろうとする。

生きていたいから。

20万人の尊い命が「死ぬ」側に回ってしまった。

フォックスはそれを「バカだな」と思っている。

「殺さなければ生きていけない」…。
その倫理をまるで宗教のように人々に植え付けた罪を、彼はどこかでつぐなうのだろうか。


彼は生き続けていた。

彼の側に立つ人々に守られながら。

モンテネグロからほんの20分。

チェレビチの深い森の中で。


※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



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※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第11話 出発
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
フォックスのモデルとなっているカラジッチは今もこのようにボスニアのどこかにいるわけですよね?
せたP
2008/03/21 07:50
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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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