ブログ小説『ハンティング・パーティ』

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zoom RSS 【小説】 第11話 出発

<<   作成日時 : 2008/03/20 12:36   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 1

結局、何がどうあれ、どう生きるかを決めるのは自分でしかない。

ベンは険しい顔つきで、おんぼろの黄色いベンツに荷物を積み込んだ。

そして助手席に座り、運転手の顔をチラッと見た。

その一瞥をまた無視するように、運転席のサイモンは窓を開け、吸っていた煙草を投げた。

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「戦争犯罪人をハントしようぜ〜」

後部座席でダックがギターをかき鳴らした。どう聞いても不協和音だ。

これが3人の「ハンティング・パーティ」の出発だった。

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しばらく走ると、山のそばに塔が見え、五輪の飾りがひなびたまま残っていた。

後部からダックが尋ねる。

「ベン、あれがなんだか分かるか?」
「スキーリフトみたいなんですけど」

ダックは親切に答えてやった。

「’84年にサラエボで冬季オリンピックがあったのを覚えてるか。
その跡地だ。
8年後、フォックスが狙撃兵の活躍の場に変えてしまったんだ」

サイモンが付け加えた。

「ヤツは金メダルの三冠王だ。フォックスってやつは世界最高のクソ野郎だよ…」

どの話も信じられないことばかりで、頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、ベンはサイモンの横顔をじっと見つめた。

説明が終わるとダックは相変わらずギターをかき鳴らして歌い続けている。
やや音痴だ。
たまらずサイモンが振り向いた。

「弾き続ける気か?」
「俺のギターが嫌いらしいな」
「それはぼくも同じです」

ベンがうなずいた。
サイモンが「やっと気が合ったな」という顔でにやりとした。

「そうか。悪かったな」

そう言いながらも弾き続けるダック。

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「いい加減にしろって」

たしなめてサイモンは、ベンに語りかけた。

「地雷がまだ埋まっているせいで、ここではもうスキーができないんだ。
 スキー客ゼロ、観光収入ゼロ。
 この国に誇りと繁栄をもたらすはずの戦争が、後に残したのは、貧困と過去の亡霊だけだ」
「“貧困と過去の亡霊”?なかなか詩的ですね」
「どうも」

二人は仲良く話し始めたが、ダックは茶々を入れる。

「それはさ、タイムズ紙のパクリだよ」
「ニューズウィークが俺のレポートからパクッたんだよっ」

ひょっとしたらサイモンという男はジャーナリストとしてすごい才能を秘めているのかもしれない。
…ベンはおそるおそる聞いた。

「それで… フォックスが隠れているという山村には、案内人でもいるんですか」
「そんなのは誰もいない。ドアを叩いて頼むんだ」

ベンはがっかりした。
と同時に、この旅がどれだけ危険かということが、ひしひしと胸に迫ってくる。
ダックがその恐れを煽るようにつぶやいた。

「標識を見ろ。文字がキリル語に変わった… セルビア人共和国に入ったんだ」
「もう?」
「サラエボからわずか10分で、レイプと略奪の国だ」
「危険ですよね」

窓の外を見るベンに、サイモンが語りかける。

「さあ… 危険かどうか。だが、500万ドルは500万ドルだからな」

ベンは驚いた。
戦犯にインタビューしたところで局はそんなギャラを払うわけがない。

「500万ドル?」
「報奨金さ」

サイモンは当たり前だと言わんばかりに続ける。

「俺が300万。あとは君らが分けろ」
「待ってください、報奨金ってどういうことですか。フォックスを生け捕る気ですか」

ダックは首を振った。

「できっこない」
「どうかな」
「イカれてるよ、サイモン」
「インタビューを取った後は、俺の自由だ」
「無茶だ。ダック、サイモンを止めてくれよ」

ベンは泣きそうになっている。
ギターを抱いたまま、ダックは遠い目をした。

「サイモン・ハントという男はだな。
 ルワンダでは、フツ族の指導者を暗殺しようとした男だ。
 その3日後には女を買ってマッサージを受けてたんだぜ。
 …サイモン、気まぐれはよせ」
「気まぐれ? 何を言うんだ」

サイモンの目がバックミラーを射るように見た。

「俺の勝負だ」

ベンは必死に言った。

「ジャーナリストの本分から外れていますよ」

しかし、そんな理屈は端からサイモンには通じない。

「俺はとっつかまえたい」
「銃ももってないのにですかっ」

サイモンは目を見開いてベンに問うた。

「銃を使えるのか?」
「いいえ」
「じゃ、文句言うな」

そのやり取りをダックはもはやあきらめたように見つめていた。
サイモンは告白した。

「俺はこの4ヶ月っていうもの、一文の稼ぎもないんだ。
 高利貸しやヤミ屋に借りた金が300万ドルを超えちまった。
 この車だって隣の家のだ。
 今朝、無断で借りてきた」

アクセルが入り、車はスピードを増していく。

「何がなんでも500万ドル必要なんだ」

ダックはそのサイモンの言い訳の奥にある、もっと深いものを感じ取っていた。
つまりサイモンが「勝負」だと言った意味を。
お金のためだけじゃないはずだ。
彼が本当に得たいものは、ジャーナリストとしてのあの日のような輝き。
ぎりぎりのところで生きる実感。
それはダックも同じだった。
ダックはバックミラー越しにベンを見た。

「言っただろ?“ボスニアの地酒に手をつけると悪魔がそばに来て笑う”って」

ベンは二人の妙な勢いに飲まれまいと、苦しげに窓を開けた。


※映画『ハンティング・パーティ』は、5月10日(土)よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショーです。



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※ブログ小説目次
第1話 サイモンとダック
第2話 ぶち切れたサイモン・ハント
第3話 ボスニア・ヘルツェゴビナへようこそ
第4話 ベン、ホリデー・インのバーにデビューする
第5話 落ちぶれた相棒
第6話 3人は揃った
第7話 「聞こう。ネタって?」
第8話 ムスリムのカフェで
第9話 盗み聞き
第10話 “生と共に死を授かった男”
第12話 チェレビチの森で
第13話 セルビアの村はずれのカフェ
第14話 撃たれた3人の車
第15話 フォチャへ
第16話 警察のティータイム
第17話 チェレビチからの命令
第18話 国連の男・ボリスとの出会い
第19話 プロの出番
第20話 フォックスは守られていた
第21話 バーの外の暗闇で
第22話 危険へと続く道
第23話 マルダとウーナ
第24話 サイモンの恋
第25話 サイモンの恋A
第26話 最悪の別れ

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
確かカンボジアとかもそうだったと思いますが、戦争の傷痕を永く残しますね。
せたP
2008/03/21 07:48
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5月10日(土)公開のリチャード・ギア主演映画『ハンティング・パーティ』をブログ小説として先行公開。映画製作秘話や独占ニュース、関連情報など、映画をより深く楽しむためのコンテンツも小説の展開にあわせて掲載します。
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